乳化技術の基礎と化粧品OEM|処方設計・乳化機・安定性評価

公開日: 2026-02-19

乳化の基本原理|O/W型・W/O型・多重乳化の違いと用途

乳化(エマルション)とは、本来混ざり合わない水相と油相を界面活性剤の作用によって微細な液滴として分散させ、均一な外観を持つ系を形成する技術です。化粧品の約70%以上が乳化系製品であり、乳化技術は化粧品OEM製造の根幹をなす技術領域です。

乳化系は連続相(外相)と分散相(内相)の関係によって、大きく3つの型に分類されます。

  • O/W型(水中油型):水が連続相、油が分散相。化粧水、乳液、美容液、日焼け止めなど多くのスキンケア製品で採用されます。使用感がさっぱりしており、水溶性有効成分の配合が容易です。電気伝導度が高く、水で洗い流しやすいのが特徴です。
  • W/O型(油中水型):油が連続相、水が分散相。ファンデーション、コンシーラー、ウォータープルーフ処方の日焼け止めなどに使用されます。耐水性に優れ、油溶性成分のデリバリーに適しています。塗布時にしっとりとしたリッチな使用感が得られます。
  • W/O/W型(多重乳化):W/O型エマルションがさらに水相に分散した三相構造です。内水相に水溶性有効成分(アスコルビン酸、ナイアシンアミドなど)を封入し、油膜で保護しつつ、外観と使用感はO/W型のさっぱり感を維持できます。成分の徐放性(スローリリース)を実現でき、高機能美容液や敏感肌向け製品に適用されます。

乳化型の選択は、配合する有効成分の溶解性、目標とする使用感(テクスチャー)、最終製品のカテゴリー、および耐水性の要否によって決定します。OEMメーカーとの処方設計打ち合わせの最初のステップとして、乳化型の方向性を明確にすることが重要です。

乳化剤の選択|HLB値・非イオン界面活性剤・天然由来乳化剤

乳化剤(界面活性剤)の選択は乳化系の安定性と使用感を左右する最も重要な設計因子です。乳化剤選択の基本指標となるのがHLB値(Hydrophilic-Lipophilic Balance)です。

HLB値は0〜20のスケールで乳化剤の親水性・親油性のバランスを数値化したもので、HLB 3〜6がW/O型乳化HLB 8〜18がO/W型乳化に適しています。油相のRequired HLB(必要HLB値)と乳化剤のHLB値を一致させることで、最も安定な乳化系が得られます。たとえば、スクワラン(Required HLB約12)を乳化するには、HLB値12前後の乳化剤系が最適です。

化粧品で多用される主な乳化剤

  • ポリグリセリン脂肪酸エステル(INCI: Polyglyceryl-10 Laurate等):HLB値を広範囲に調整可能で、低刺激性。敏感肌向け処方に多用されます。太陽化学やダイセルが主要サプライヤーです。
  • ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(INCI: PEG-60 Hydrogenated Castor Oil):HLB 14前後。可溶化力が高く、透明化粧水や美容液の油性成分可溶化に使用されます。
  • 水添レシチン(INCI: Hydrogenated Lecithin):天然由来のリン脂質系乳化剤。ラメラ構造を形成しやすく、セラミド配合処方やリポソーム製剤に不可欠です。キューピーやLipoidが原料供給元です。
  • ステアリン酸グリセリル(SE)(INCI: Glyceryl Stearate SE):自己乳化型乳化剤。HLB 11前後で、O/W型クリームの基本乳化剤として広く使用されます。
  • アルキルグルコシド(INCI: Decyl Glucoside等):糖由来の非イオン界面活性剤。生分解性が高く、ナチュラルコスメ・オーガニック処方で採用が増加しています。

実際の処方設計では、単一の乳化剤ではなくHLB値の異なる2種以上の乳化剤を組み合わせる「混合HLB法」が一般的です。これにより界面膜の強度が増し、長期安定性が大幅に向上します。乳化剤の総配合量は一般的にO/W型で2〜5%、W/O型で3〜8%が目安です。

乳化機の種類と特徴|ホモミキサーからマイクロフルイダイザーまで

乳化機の選択は、得られるエマルション粒子径、生産スケール、および処方特性に直結します。OEMメーカーが保有する乳化設備は製造能力の指標であり、委託先選定時の重要なチェックポイントです。

主な乳化機の種類と特徴

  • ホモミキサー(高速回転型):ローター・ステーター構造で液体を高速せん断するタイプ。回転数3,000〜10,000 rpmで、粒子径1〜10μm程度のエマルションが得られます。乳液、クリーム、ボディローションなどの一般的なスキンケア製品の乳化に広く使用されます。特殊化学工業やプライミクスが主要メーカーです。設備コストが比較的低く、スケールアップが容易な点が利点です。
  • 高圧ホモジナイザー:液体を50〜200 MPaの高圧でバルブ間隙に通過させ、キャビテーションとせん断力で微細化するタイプ。粒子径0.1〜1μm(100nm〜1μm)のサブミクロンエマルションが得られます。GEA Niro Soaviやイズミフードマシナリーが主要メーカーです。高圧乳化により粒度分布がシャープになり、長期安定性に優れたエマルションが得られます。
  • マイクロフルイダイザー:インタラクションチャンバー内で液体流同士を高圧(最大200 MPa以上)で衝突させ、粒子径50〜200nmのナノエマルションを安定的に製造できます。Microfluidics社が代表的メーカーです。高価な装置ですが、再現性が極めて高く、粒度分布が非常にシャープ(PDI < 0.2)という特徴があります。
  • 膜乳化:SPG膜(Shirasu Porous Glass)などの多孔質膜を通して分散相を連続相に押し出す方式です。膜の孔径によって粒子径を精密に制御(CV値10%以下)でき、均一な粒度分布の単分散エマルションが得られます。乳化剤の使用量を最小限に抑えられるため、低刺激処方に適しています。宮崎県工業技術センターとSPGテクノが開発・供給しています。

OEMメーカーの設備確認では、保有する乳化機の種類に加え、スケール対応範囲(ラボスケール1〜5kg、パイロットスケール10〜50kg、生産スケール100kg以上)とCIP(定置洗浄)対応の有無も確認すべきです。多品種少量生産の場合、CIP対応設備は切り替え時間の短縮とコンタミネーション防止に有効です。

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ナノエマルション技術|微細化がもたらす機能性向上

ナノエマルションとは、分散粒子径が50〜200nm(0.05〜0.2μm)の超微細エマルションを指します。通常のマクロエマルション(粒子径1〜100μm)やマイクロエマルション(熱力学的安定系)とは区別される動力学的安定系であり、高エネルギー乳化法によって製造されます。

ナノエマルションの特性と利点

  • 透明〜半透明の外観:粒子径が可視光の波長(380〜780nm)以下になるため、光の散乱が抑えられ、透明感のあるジェル状・ウォーター状の外観が得られます。美容液やエッセンスウォーターなど、清涼感のある製品設計に適しています。
  • 経皮吸収性の向上:微細な粒子径により角質層への浸透性が向上します。ナノエマルションに封入したレチノール(Retinol)やコエンザイムQ10(Ubiquinone)は、通常のエマルションと比較して皮膚透過量が1.5〜3倍向上するという研究報告があります。
  • 優れた安定性:ブラウン運動が重力によるクリーミングやセディメンテーションに打ち勝つため、長期間にわたり分離が起きにくくなります。適切な処方設計により、40℃・6ヶ月間の加速安定性試験をクリアするナノエマルションの構築が可能です。
  • 不安定成分の保護:油滴のサイズが小さいほど比表面積が増大し、界面膜による酸化防止効果が向上します。アスコルビン酸テトラヘキシルデシル(INCI: Tetrahexyldecyl Ascorbate)やレチノールなどの酸化劣化しやすい成分の安定化に有効です。

製造上の留意点

ナノエマルションの製造には高圧ホモジナイザーまたはマイクロフルイダイザーが必要で、通常2〜5パス(複数回処理)で目標粒子径に到達させます。処方面では、乳化剤濃度が通常エマルションより高め(3〜8%)に設定されることが多く、界面膜の厚さと弾性を確保するためにセタノール(Cetyl Alcohol)やベヘニルアルコール(Behenyl Alcohol)などの高級アルコールを補助乳化剤として0.5〜2%添加するケースが一般的です。OEM委託時には、ナノエマルション対応のメーカーであるか、粒度分布測定装置(動的光散乱法対応)を保有しているかを確認してください。

安定性評価法|遠心分離試験から粒度分布測定まで

乳化系の安定性評価は、製品の品質保証と賞味期限(使用期限)設定の根拠となる極めて重要な工程です。化粧品OEMにおいて、試作段階で以下の評価を体系的に実施します。

1. 遠心分離試験(加速分離試験)

3,000〜10,000 rpmで15〜30分間遠心処理し、クリーミング(油滴の浮上)やセディメンテーション(沈降)の有無を観察します。3,000 rpm・30分で分離が見られなければ、常温で約6ヶ月の安定性に相当するとされる目安があります。ただしこれは簡易スクリーニングであり、最終的な安定性判断には実保存試験が必要です。

2. 温度サイクル試験(凍結融解試験を含む)

−5℃〜40℃(または−10℃〜45℃)を24時間ごとに繰り返し、3〜6サイクル後の外観変化・粘度変化・分離状態を評価します。特に5℃以下での結晶析出や、40℃以上での粘度低下・変色がないかを確認します。化粧品GMPでは、少なくとも3温度帯(5℃、25℃、40℃)での安定性データの取得が推奨されます。

3. レーザー回折式粒度分布測定

堀場製作所のLA-960V2やマルバーン・パナリティカルのMastersizer 3000などが代表的な装置です。粒度分布の中央値(D50)とスパン値((D90−D10)/D50)を初期値として記録し、加速安定性試験後の値と比較します。粒子径の経時的な増大(オストワルド熟成)は乳化系の不安定化の兆候です。ナノエマルションの場合はDLS(動的光散乱法)による測定が適しており、マルバーンのZetasizer Proが広く使用されています。

4. 実保存試験(長期安定性試験)

25℃/60%RH(常温常湿)および40℃/75%RH(加速条件)で6ヶ月以上保存し、定期的(1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月時点)に外観、pH、粘度、色差(ΔE)、微生物限度試験を実施します。使用期限の設定は、加速条件での6ヶ月安定性データに基づき、常温で約3年の品質保持を推定するのが一般的なアプローチです。

OEMメーカー選定時には、これらの安定性評価設備(恒温恒湿槽、遠心分離機、粒度分布測定装置)の保有状況と、試験報告書のフォーマットを確認しましょう。

処方設計の実例|多重乳化美容液と高SPF日焼け止め

乳化技術を活用した化粧品OEMの代表的な処方設計例を2つ紹介します。いずれもOEMメーカーとの処方設計打ち合わせで参考になる構成です。

実例1:W/O/W多重乳化美容液

内水相にナイアシンアミド(INCI: Niacinamide)3%とアスコルビルグルコシド(INCI: Ascorbyl Glucoside)2%を溶解し、油相にスクワラン(INCI: Squalane)10%、メドウフォーム油(INCI: Limnanthes Alba Seed Oil)5%を配合します。一次乳化(W/O)にはポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(INCI: Polyglyceryl-2 Dipolyhydroxystearate、HLB 3〜4)を3%使用し、ホモミキサー6,000 rpmで予備乳化。二次乳化(W/O/W)にはポリグリセリン-10ラウリン酸エステル(HLB 12〜14)を2%使用し、パドルミキサー500 rpmで穏やかに転相させます。二次乳化時の撹拌速度が高すぎると内水相が破壊されるため、低速での段階的な水相添加が鍵です。

実例2:O/W型高SPF日焼け止め(SPF50+ PA++++)

紫外線防御剤として、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル(INCI: Ethylhexyl Methoxycinnamate)7.5%、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル(INCI: Diethylamino Hydroxybenzoyl Hexyl Benzoate、通称DHHB)3%、酸化チタン(INCI: Titanium Dioxide、微粒子型・表面処理済)5%、酸化亜鉛(INCI: Zinc Oxide、微粒子型)10%を組み合わせます。乳化剤にはPEG-30ジポリヒドロキシステアリン酸エステル(INCI: PEG-30 Dipolyhydroxystearate)3%と、ステアリン酸アルミニウム(INCI: Aluminum Stearate)1%を使用します。

微粒子酸化チタンと酸化亜鉛の分散には、ビーズミルまたは三本ロールミルで予備分散したペーストを使用し、凝集による白浮きを防止します。高圧ホモジナイザー(100 MPa・2パス)での仕上げ乳化により、均一な分散と高いSPF値を両立させます。

これらの処方例はベースラインであり、実際にはOEMメーカーの技術者との協議を通じて、テクスチャー調整、防腐系設計(フェノキシエタノール0.8% + エチルヘキシルグリセリン0.3%等)、香料選定を詰めていきます。

OEMメーカーの乳化設備チェックポイント

化粧品OEMメーカーを乳化技術の観点から評価する際に、確認すべき設備・体制のチェックポイントをまとめます。

乳化設備

  • 真空乳化釜の有無と容量:真空下での乳化は脱泡と酸化防止を同時に実現します。ラボ用(1〜10L)、パイロット用(10〜100L)、生産用(100〜1,000L)の各スケールに対応できるかを確認。特に多品種小ロット生産では、小型釜の充実度が重要です。
  • 高圧ホモジナイザーの最大処理圧力:100 MPa以上に対応していれば、ナノエマルション製造が可能。日本精機製作所やAPV Gaulinの装置が国内では多く導入されています。
  • 分散・混合装置:ビーズミル(粉体分散用)、プラネタリーミキサー(高粘度ペースト用)、ディスパー(予備分散用)の有無。ファンデーションやサンスクリーンなど粉体分散が必要な処方では必須です。
  • 温度制御の精度:乳化温度は通常70〜80℃で行いますが、感熱性成分(ビタミンC誘導体、酵素など)を配合する場合は50℃以下での低温乳化が求められます。冷却速度のコントロール(急冷・徐冷の選択)もテクスチャーに影響します。

品質評価設備

  • 粒度分布測定装置:レーザー回折式(マクロエマルション用)とDLS(ナノエマルション用)の両方を保有しているか。
  • 粘度計:回転粘度計(B型またはE型)に加え、レオメーター(動的粘弾性測定)を保有していれば、テクスチャー設計の精度が高いメーカーといえます。
  • 恒温恒湿槽:5℃、25℃、40℃の3温度帯を同時に保存試験できる設備。容量と収納可能なサンプル数も確認ポイントです。
  • pH計・電気伝導度計:乳化型の判別(O/W型は電気伝導度が高い)および経時変化のモニタリングに使用します。

設備だけでなく、乳化技術に精通した処方開発者(フォーミュレーター)の在籍数も確認しましょう。装置は同じでも、運転条件の最適化や処方トラブルへの対応力は人材に依存します。試作段階で処方提案力が高いメーカーは、本生産時のトラブルも少ない傾向にあります。

よくある質問

Q. O/W型とW/O型の乳化の違いは何ですか?
O/W型(水中油型)は水が連続相で油が分散相の乳化系で、さっぱりした使用感が特徴です。化粧水、乳液、美容液など多くのスキンケア製品で採用されます。W/O型(油中水型)は油が連続相で水が分散相の乳化系で、しっとりしたリッチな使用感と耐水性に優れ、ファンデーションやウォータープルーフ日焼け止めに使用されます。
Q. HLB値とは何ですか?乳化剤選びにどう活用しますか?
HLB値(Hydrophilic-Lipophilic Balance)は乳化剤の親水性・親油性のバランスを0〜20のスケールで数値化した指標です。HLB 3〜6がW/O型乳化、HLB 8〜18がO/W型乳化に適しています。油相のRequired HLB値と乳化剤のHLB値を一致させることで安定な乳化系が得られます。実際の処方ではHLB値の異なる2種以上の乳化剤を組み合わせる「混合HLB法」が一般的です。
Q. ナノエマルションのメリットは何ですか?
ナノエマルション(粒子径50〜200nm)には、透明〜半透明の外観が得られる、経皮吸収性が通常エマルションの1.5〜3倍に向上する、ブラウン運動により長期間分離しにくい優れた安定性がある、不安定成分(レチノール、ビタミンC誘導体等)の酸化防止効果が向上する、などのメリットがあります。
Q. OEMメーカーの乳化設備で確認すべきポイントは?
真空乳化釜の有無と容量(ラボ用・パイロット用・生産用の各スケール対応)、高圧ホモジナイザーの最大処理圧力(100MPa以上でナノエマルション対応可能)、粒度分布測定装置(レーザー回折式・DLS)の保有状況、恒温恒湿槽の設備、CIP(定置洗浄)対応の有無を確認しましょう。設備に加え、乳化技術に精通した処方開発者の在籍数も重要です。

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